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「えー?」惹き終えたらしい。ぱっぱと細かくなったコーヒー豆を、いまどき珍しい、アナログのはかりのうえに置いたガラスボウルの中に入れ、……どうやら計量している。「最愛の彼女が来るんだもん。おもてなしをするのが彼氏の務め、ってもんさ……だってさ」
川上くんは、道具を置くと、いきなり、こちらにからだごと向いて、にこっと笑い、
「……初の、おうちデート、なんだからさ」
――やばい。いまの。
急転直下。
かるく、腰が、抜けた。慌ててカウンターについた手で、己を支える。明日からわたし、どんな顔して、仕事すればいいのぉーーー!!!
「桃花。だいじぶ?」……わたしの異変に気付いたらしい、川上くんが、「あとはおにーさんがちゃちゃっとやっておくから。きみは、休んでいなさい」
「やだ」反射的に声が出た。「隆宗のすること、隣で、ずっと……見ていたい」
ウッ、と、川上くんが胸を押さえた。そして、何故か、盛大に、はーっ、と、息を吐いた。……どうしたのだろう。まずったかな。
「あ……や……」とわたしは腰をあげた。「お邪魔だよね。邪魔だったらあっちのほうで見守ってるか――」
ら、の文字が言えなかった。いきなり、――キス、されていた。
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