#03.川上くんは罪な男です。

8/10
前へ
/52ページ
次へ
「えー?」惹き終えたらしい。ぱっぱと細かくなったコーヒー豆を、いまどき珍しい、アナログのはかりのうえに置いたガラスボウルの中に入れ、……どうやら計量している。「最愛の彼女が来るんだもん。おもてなしをするのが彼氏の務め、ってもんさ……だってさ」  川上くんは、道具を置くと、いきなり、こちらにからだごと向いて、にこっと笑い、 「……初の、おうちデート、なんだからさ」  ――やばい。いまの。  急転直下。  かるく、腰が、抜けた。慌ててカウンターについた手で、己を支える。明日からわたし、どんな顔して、仕事すればいいのぉーーー!!! 「桃花。だいじぶ?」……わたしの異変に気付いたらしい、川上くんが、「あとはおにーさんがちゃちゃっとやっておくから。きみは、休んでいなさい」 「やだ」反射的に声が出た。「隆宗のすること、隣で、ずっと……見ていたい」  ウッ、と、川上くんが胸を押さえた。そして、何故か、盛大に、はーっ、と、息を吐いた。……どうしたのだろう。まずったかな。 「あ……や……」とわたしは腰をあげた。「お邪魔だよね。邪魔だったらあっちのほうで見守ってるか――」  ら、の文字が言えなかった。いきなり、――キス、されていた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加