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「好きだ。付き合って欲しい」
職場恋愛なんて、リスキー以外の、何物でもない。だから、わたしは、
「無理です」
即答した。すると川上くんは、「理由は?」と聞いてくる。
……あなた、同じ職場なんだから、わたしが転職経験あることくらい、知っているでしょうよ。
「川上さんは。ジョークでそんなことを言うひとじゃないから……信じて。敢えて、本当のことを、答えますけど。
わたし、前の職場を退職したのは、……同僚に、彼氏を奪われて。気まずくなったから……なんです」
てっきり顔色を動かすと思いきや。さっすが『氷の男』。『コールドフェイス』の異名は、伊達ではない。表情筋ひとつ、動かしやしない。
「だから。もし、……同じようなことになったら、お互い気まずいですし……ああいう事態は、二度と、ごめん、なんです。……分かってください」
「別れなければいいだけの話じゃないか」涼しい顔で、川上さんは言う。「おれは、……職場だけの付き合いだけれど、きみのことは、よく、分かっているつもりだ。……人前で明るくはしているけれど、裏で、結構悩むタイプだろ? ……きみは可愛いから、同性の嫉妬を買いやすいからな……会社で同性の友達がいないのも、それが原因だ」
――な。「なんで……そのことを……」
知っているんです? の言葉が続けられなかった。あろうことか――川上さんが、わたしに向かって、微笑みかけているから。
――きゅん。
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