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* * *
「下北は久々だなぁ。……友達の演劇、見に来て以来かも」
「……そうなんだ」
「そうなの。……手ぇ、繋いでいい?」
「……ご自由に」
「ははっ」とわたしの手を握る川上くんは、やっぱり、自分のジャケットのポッケにわたしの手を入れて、「こっちにおいでーお嬢ちゃん。あーったかいよーぅ」
「変質者ですか」とわたしは苦笑いをする。「……ねえ。どうして川上くんって、普通に黙ってればイケメンなのに、わたし相手だとフザけたことばーっかいうの?」
「だって」立ち止まった川上くんは、わたしに顔を向けて、「好きだから」
そっ……と、耳元でささやかれたときに、気絶しそうな感覚がわたしを襲った。……腰、抜けそう……。
「いちいち反応してくれる桃花が可愛いよ」今度はわたしの髪を撫でた……と思ったら、不意に、わたしを、抱き寄せた。「ああ……すっげえ、どきどき言ってる……聞こえてる?」
「聞こえてる」川上くんの胸の感触。後頭部に添えられるやさしいぬくもり。――を、感じていると急に――
離れるのが寂しくなった。
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