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うわ。なんだこれ。こんな感情……久しく、味わっていないわ。転職してからはもう、恋なんかしない、って決めたから。……探すのとか、同じ職場でこじれるのとかもう、たくさんなの。
「こころを開かなければ相手もこころを開かない」と川上さん。「聡いきみのことだから、充分に、そのことは、分かっているだろうが……」
「――か。川上さんだって、外だとポーカーフェイスじゃないですか」とわたしは反撃した。「映画館であんなげらげら笑うなんて……ああいう顔見せるなんて……は、反則です……」
するとずい、と川上さんは身を乗り出し、
「――なんだ。脈ありってやつか?」
なんて台詞を吐くものだから、「か、勘違いです……」と反論する。しかし、声音は必然、弱弱しいものとなる。
川上さんは、真剣な眼差しでじっとわたしを見つめたまま、
「自分のすべてを、曝け出せる相手が欲しいとは、思わないのか」
「……や」たまらず、わたしは、目を逸らした。真剣さが胸に刺さる。「……お、思わなくはないですけど……でも、怖いんです。自分から信じて、……裏切られるのが……」
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