Stood In Me

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 子供の頃、僕たちはいつも君と一緒だった。  君がこの世に生まれた時こそ知らないけれど、それでも君が生後数か月の赤ちゃんの時から、僕たちは一人、また一人と君と出会って、君が物心付く前には、全員が君と友達になっていた。  見た目も特技も違う、大勢の仲間たち。朝から晩まで、ご飯を食べる時もお喋りする時も、ずっと一緒。時にはケンカ相手に一泡吹かせたりもしたっけ。君はよく笑うから、おかげで僕たちもあんまり暗くならずに過ごせたよ。  だけど、君が小学校に上がる少し前くらいからかな。僕たちの関係は変わり始めた。……いや、お互いがそれぞれに変わり始めたんだ。  どんどん大人になっていく君に対して、僕たちは逆に弱くなっていった。自分の足元が少しずつ崩れ、何かが自分の立場をおびやかそうとしているような感覚……。  病気じゃあないんだ。病気なら、なった事のある仲間はいるもの。君はひどく嫌がってたけど、病気なら手遅れになる前に治療すればなんとかなるし、大した事ないものなら放っておいても治る。だけどこの時の変化は、それとは違うってはっきり分かった。僕たちはみんな、君とお別れする時が近いって悟ったんだ。  僕たちの足は萎え、一人、また一人と落ち着きをなくしていった。そうなると君はもう、僕たちを厄介者としか見なくなってしまった。……辛いけど、君の気持は分かる。僕たちだって、もう諦めていたんだからね。この期に及んで君を苦しめるのは、僕たちだって本意じゃあなかった。別れるならきっぱり別れるべきだって、僕たちだって思っていた。だけど、何かが僕たちを君に引き留めていたんだ……。  けれどもそうこうするうちに、結局僕たちは一人、また一人と、君から離れていった。多くは君のために働いているその最中にリタイアした。衝撃的な別れ方をしたやつもいるし、最後は砕け散ったやつもいる。君が力尽くで引導を渡したやつもいたね。  君は僕たちとの別れに際して、いつも少し驚いた後、安心したように笑った。……それでいいんだ。僕たちは、いつまでも君と一緒にいるべきじゃあない。後が既に、控えているんだから。僕たちなんかよりもずっと強くて数も多い、もっと君と長く付き合っていくべき連中が……。  君は僕たちの最初の何人かは、宝物か何かのように、箱に納めて側に置いてくれた。何人かは丁寧に土に埋葬してくれた。何人かは天に向かって解き放たれた。欧米では僕たちのような者の末路は、夜闇に紛れて、はした金で交換されるという事らしい。もっとも、結局僕たちの大半は、最期はゴミのように捨てられたのだけど……。  総勢二十人の仲間たち。最後の一人は、君が中学生になってもまだ君にしがみついていたっけ。  憶えているかい? みんなで君と一緒に、沢山の思い出を作ったね。毎年恒例、ふわふわの誕生日ケーキ、お父さんが焼き過ぎた硬いステーキ、おばあちゃんちのおせんべい、真夏の冷たいアイスクリーム……!  新しい連中とは、上手くやっているのかい? まだ全員とは会ってない? まあ、三十二もいるからね。中には奥手なやつもいるらしくてね、君とは相容れないって事もあるかもしれない。とんだトラブルになるかもしれないけど、その時は頑張って耐えるんだよ。  僕たちは連中に君の事を託して、信じて後を譲ったんだからね。君も連中の事を大事にしてやってくれよ。あいつらがやられちゃったら、もう後に続く者はいない。よそから質の悪いのを雇い入れるしかなくなるんだからね。  ……じゃあ……、この辺にしておこうか。風邪とか引かないようにね。  医者にも定期的に連中を見せにいく事。  お菓子の食べ過ぎに注意。  面倒くさがらずに毎日きちんと、歯、磨いてよね。
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