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次の日、授業の合間に未央ちゃんと琴音ちゃんがやってきて、午後の体育で一緒にバトミントンをやろうと誘ってくれた。嬉しい。もちろんOKする。
「ありがとー! 優衣って前の学校でバドやってたんでしょ? 百人力じゃん!」
「百人力とか、未央だれと戦うつもりなの? ウケる」
二人は楽しそうに笑っている。しかし、私の心はそれどころじゃなかった。
(ちゃんと言わないと、二人にはっきりと……!)
「み、未央ちゃん、琴音ちゃん……」
二人が顔を向ける。
「昨日話してた映画のことなんだけど、私、これも気になってるの。……どう?」
私は先生がいないことを確認して、二人にスマホで『タイム・アウト』のポスターを見せた。
「ああ! 私これ知ってる! 面白そうだよね」
琴音ちゃんが言った。未央ちゃんも画面を見てうなずく。
「いいじゃん! 私これでもいいよ。アクションとか好きだし」
「ほんと……?」
二人は拍子抜けするほどあっさり承諾してくれた。
『観たい映画を言うと、嫌われるんですか?』
黒瀬くんの声が響く。
(やっぱり。私、二人のこと決めつけてた)
未央ちゃんと琴音ちゃんはまた何か言い合って笑っている。今はじめて二人の顔をちゃんと見れた気がした。
(はっきり言って良かった。これも黒瀬くんのおかげ──)
「──ねえ優衣、気づいてる?」
「え?」
「黒瀬。めっちゃ優衣のこと見てるよ」
未央ちゃんが怪訝そうに視線を向けた先には、黒瀬くんが立っていた。昨日のことを気にかけているのか、隠すことなく私たちの方を見ている。すると、琴音ちゃんがのんびりと言った。
「黒瀬くんって、優衣ちゃんのこと好きなのかなぁ?」
「──え!?」
「分かる。いつも優衣のこと見てるもんね。こないだも謎に絡んできたし」
「いやそれはたまたまだよ! 偶然近くにいたから声かけただけで、好きとかじゃないよ!」
「えー絶対好きだよー。じゃなきゃあんな見ないでしょー」
「優衣。言いづらいなら私が言ってあげようか。迷惑してるって」
「いや! あの、迷惑はしてないっていうか、たぶん勘違いっていうか……」
私がしどろもどろしていると、琴音ちゃんが顔を寄せてくる。
「もしかしてー、優衣ちゃんも黒瀬くんのこと好きなの?」
その言葉に耳まで赤くなるのが分かった。
「違うよ! なんでそうなるの! 違う! 絶対違うから!」
「怪しい……」
琴音ちゃんの目が光る。
「確かに。そこまではっきり言われると、逆に怪しいわ」
「ええ!?」
白井優衣、中学二年生。私には憧れてる人がいる。『憧れ』っていうのは、好きとか恋してるとかじゃなく、あんな風になれたらいいなっていう、そういう憧れ……
──そういう憧れだからね! 絶対!
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