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「優衣ちゃんおつかれ〜」
「ねえ優衣、来週うちら映画行くじゃん? なんか観たいのある?」
五時間目の数学の用意をしていると、未央ちゃんと琴音ちゃんが机までやってきた。二人は幼なじみの仲良しで、私がこの中学に転校した日、すぐに声をかけに来てくれた。二年生になってクラスは離れちゃったけど、休みの日とかはときどき一緒に遊んでいる。
「観たい映画、そうだなぁ……。ふたりは何か観たいのあるの?」
私が言うと、未央ちゃんが口を開く。
「実はうちら二人でも考えてたんだけどさ」
「『君と明日を思い出す』とかよくない?」
言いながら、琴音ちゃんは私にスマホ画面を向けた。画面には映画のポスターが映っている。私は見覚えのあるポスターに「あ!」声を上げた。
「それ、面白いらしいよね。……じゃあ、『君と明日を思い出す』にする?」
「マジ? 優衣がいいならいいけど」
「い、いいよ! 面白いらしいし!」
私はそう言って笑った。本当は『タイム・アウト』っていうアクション映画が気になってたんだけど、私は二人と遊びに行けるだけで嬉しい。それに、最近話題のこの映画が気になってたのも事実だ。だからこれでいい──
「──なんで聞いたんですか?」
突然投げかけられた言葉に私たちが顔を向けると、机の横に黒瀬くんが立っていた。
「え、何……?」
未央ちゃんは言いながら、琴音ちゃんと顔を見合わせる。
「二人で観たい映画を決めてたのに、なんでわざわざ白井さんに観たい映画を聞いたんですか」
「そりゃ聞くでしょ。一緒に行くんだからさ」
「でも二人は観たい映画が決まってたんですよね」
「なんなの。マジでうざ……」
未央ちゃんの目の色が変わるのを見て、私は慌てて止めに入った。
「あ、あの! ほんとに私何も考えてなかったから、むしろ二人が話し合ってくれててありがたいくらいだし、だからその……」
黒瀬くんは真っ直ぐ私を見ている。真っ黒な髪と、女子顔負けの白い肌は、まるで彼の性格をそのまま体現しているようだ。
「なんていうか、心配? してくれてありがとう……」
「いや、心配とかじゃないんですけど、気になって……」
「あ、うん」
そのとき、授業開始五分前を知らせるチャイムが鳴った。未央ちゃんは気を取り直したように私に向き直る。
「じゃあ優衣、来週よろしくね? いこ、琴音」
「優衣ちゃんまたね〜!」
「うん! 映画楽しみにしてる! またね……」
二人が教室から出ていくのを見て、私は黒瀬くんの方へ視線を向けた。しかし──
「あれ、いない……」
ぐるりと教室を見回すと、黒瀬くんはもう自分の席に着いてノートを書いていた。何だか瞬間移動みたいで面白くて、つい笑みが浮かぶ。
(私もあんな風にはっきり意見を言えたらなぁ……。まあ、ちょっと言い方はアレだけど……)
私は黒瀬くんから視線を外すと、そっと教科書を開いた。
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