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⑸
身体が冷える前に友さんをベッドに滑り込ませた俺は、素早くシャワーを浴びて友さんの傍へと急いだ。
いつの間に買ったのか壁に沿うように見慣れない抱き枕があり、それを背中にスマホを弄る彼を抱き寄せた。
「抱き枕買ったの?」
いつも俺の足に足を絡ませて眠る友さんの癒しになっていたのかと思いながら尋ねてみる。
「……怒らない?」
聞いて怒るようなことなのかと身構えてみたけど、たかが抱き枕……そう思い頷いてみせた。
「……誠治さんが、寂しいだろうってくれたんだ」
カーテンの隙間から月の光が友さんをやんわりと照らし、抱き枕の色がパステルブルーだとわかる。
二宮部長のことだ、友さんの好みは知っているはず。いや、知っているに違いない。
だが、俺が二宮部長を好意に思っていないことも友さんは知っている。
だから『怒らない?』なんて聞いたんだ。
少しモヤモヤとはするが、二宮部長が友さんの気持ちを察してくれているのは充分わかっている。
「……そう」
「でもさ、使ってない」
「え?気に入らなかったの?」
「抱きしめるより抱きしめられるほうが好きだからさ」
「えっ、あっ、そうなんだ」
「おかしいよな、男なのに……でもそうなんだから仕方ない」
一瞬、サバサバとした職場での友さんを垣間見た気がした。
「元希も抱きしめられるほうが好きか?」
不安げに呟く言葉を拾い上げる。二人ともが抱きしめられるほうが好きなら誰が抱きしめるんだって話に繋がる。
「今みたいに腕では抱きしめてるのに、友さんの足に絡められてるのが好きだなぁ」
しかかるように足全部を使い俺の身体に巻き付けている。
抱きしめ抱きしめられてお互いの熱を感じるのが好きなんだけど、どうしても友さんは足を拘束したがる。
どこにも行かせないとでも言うように。
これじゃ抱き枕と化した俺が抱きしめてる感じがするんだけどね。
要は抱きつきたはいいけど、抱きしめてくれないから抱き枕じゃ物足りないってことか。
二宮部長の心遣いは嬉しいけど、そんなものじゃ友さんは満たされないってことだ。
そんな友さんを二宮部長は知らない。
俺に愛されることに貪欲な友さんの知らない部分。器用な一面に隠れる不器用なこの人は俺のものだ。
張り合う次元が違う。そんなことを思いながら擦り寄る身体を抱きしめ、柔らかく弾力のある髪にキスを落とした。
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