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友さんが作ってくれた甘いフレンチトーストを頬張りながら、スマホのチェックをした。
自分一人が一日早く帰ったことで一緒に帰る予定だったメンバーが気になっていたからだ。
常磐さんからのメールが一通。それと着信が一件。
常磐さんからのメールは残りのメンバーが飛行機に乗ったことを知らせるもので、着信画面を見ると、実家からのものだった。
食べ終えたのと同時に友さんは食器を手に立ち上がり礼を言うとまた柔らかい笑顔を見せてくれた。
「友さん、ちょっと電話する」
振り返った表情はどうぞと頷き、俺はその場で履歴をタップした。
呼出音が三回。『もしもし』と母親の声が耳元に聞こえた。
「おはよう。電話なんだったの?」
名前も告げず唐突に聞いても慌てることなく母さんは笑った。
『用ってことでもないんだけど、もっくん全然帰ってこないし電話もかけてこないからお父さんが電話しろって煩いのよ』
「ああ、ごめん。最近海外出張が多くて」
『足の具合はどお?良くなった?』
タイでの事故のことは友さんが実家に連絡を入れてくれていたし、その後の経過も詳細に伝えてくれていたから、自分から連絡したのは一度きりだった。
「もう、完治したよ。走ることもないから日常生活に支障はないよ」
学生時代陸上をしていた俺はそう口にしていた。
『なら、いんだけど。三連休なんだし帰ってくれば?仕事休みなんでしょ?』
新幹線を使えば二時間弱で帰れる距離にある実家には、大学生の頃はよく帰っていた。それでもこの三連休は友さんと過ごそうと一日早く帰ってきたのに実家に時間を取られるのは不本意だった。
『おばあちゃんも歳だし、顔見せてあげて?』
それをきり札に出されると俺は弱いのを母さんは知っている。ばあちゃん子だった俺にはかけがえのない人だということも。
「連休の予定はまだわかんないから。俺さ、深夜にタイから帰ってきたばっかなんだよ。また連絡するから」
不服そうに返事を寄越した母の言葉を遮るように『切るよ』と終話ボタンを押した。
「お母さん帰ってこいって?」
ガラスの更に綺麗に切られ剥き身になった梨を差し出し、目の前に座った友さんはそう尋ねてくる。
「うん、足の具合とか……ばあちゃんも歳だから帰ってくればって。まあ、この三連休じゃなくても……」
暫く留守にしていたこの家で友さんとゆっくりまったり過ごしたいと思っていたのに……
「いんじゃない?予定もないし」
友さん、本気で言ってる?
「そうと決まれば準備しなきゃ!そうだ!中々遠出することもないし、車で行こうよ!」
「ええ?ちょっと待って!友さんも一緒?」
「え?俺がついて行って都合の悪いことでもある?別にご挨拶くらいいいだろ?お前はゆっくり実家にいたらいいし、俺はドライブでもするから」
うわぁ楽しみ〜と跳ねるようにベランダに出て可愛子達をひさしの着いた場所へと移動している。
楽しそうな姿を見て行くのを止めようとも言えず、俺はただベランダでスキップでもしそうな友さんを見つめていた。
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