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二人分の一泊の荷物を大きめのバックに詰め込み、家の戸締りを確認し、ガレージにいる友さんの元へと急いだ。 暫く動かしていなかったエンジンの音が聞こえ、ガレージに繋がるドアを開けると、これも暫く開けていなかった車庫の扉が開いていて、見慣れない景色が飛び込んでくる。 クラシックカーというのだろうか。手入れの行き届いた見慣れない車種のツーシーターのそこそこでかい車が目に入る。 友さんの祖父が車好きとあって、ピカピカに磨き上げられた黒のボディは俺の顔を移していた。 「戸締り大丈夫?」 「うん」 開いていたトランクに荷物を載せ、ドアを締めれば、運転席に移動した友さんがこちらを伺うように見つめる。 「どうした?早く乗って」 胸元にぶら下がっていたサングラスをした友さんは見慣れない姿を見せ、俺は見蕩れていた。 タイでの事故で心労からなのか少し痩せた身体に、ブラックのジーンズにグレーのジャケット。Vネックのカットソーに少しセットされた髪、普段見慣れない姿に 俺は見蕩れていた。 「あ、うん」 助手席のドアを開け、低めの車体に身体を屈め乗り込み、視線を感じて運転席を見た。 「俺が……ついて行くの……嫌か?」 俺の態度に勘違いしたのか不安そうな表情を見せる。 「え?そんなことないよ。二人で遠出することないし……ちょっと見蕩れただけ」 「見蕩れる?」 「……友さんに見蕩れただけ!かっこいいなって」 痛い程見つめられた視線に、タジタジの視線を彷徨わせた。 「ちょっと強引だったかなって……元希が実家に帰るのと遠出のデート一緒したのは不味かったか?」 普段からして見られない不安を含む言葉とその表情に今感じたことを言葉にしないといけないと頬が熱くなるのを感じた。 「違うよ!一緒に出掛けるのは嬉しいし、俺の実家に連れていきたいって思ってたし!ただ……都会の人はやっぱ何着てもセンスいいなぁって思っただけだから!」 田舎育ちの俺がイキって洒落た格好をしても体に染み付いた都会暮らしの人は何を着てもお洒落に見えてしまう、田舎育ちならではの劣等感だ。 「それは偏見。元希だって……スタイル良いから何着ても似合うし」 閉ざされた狭い空間で二人で褒め合い見つめ合うとか……それでも先に口を開いたのは友さんだった。 「へ、へんなこと言うから、妙な空気になったじゃん!さ、さて、出発しますか!」 ギアをドライブに変え、ゆっくりと車体は動き出し、ボタン操作でシャッターを下ろした。 「ナビはセットしたけど、途中色々寄り道しながら行こ?」 「あ、うん、そうだね」 時間を見れば十三時を指そうとしていた。 「途中でランチしようか?」 立ち寄ってもいいし、テイクアウトでもいい。『そうだね』と微笑み頷いた横顔に、空を見上げれば真っ青な雲のない快晴の空。 ドライブにはもってこいの天気。 大好きな人とのドライブにワクワクと心は踊り始めた。
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