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順調に実家へと近づく高速道路を走り、時折サービスエリアに立ち寄り、その土地の特産品を眺めたり実家へのお土産を買ったりと、普段では見られないはしゃぐ友さんに何度も見蕩れていた。 職場と家の往復と、たまの休みは家でゴロゴロしたり近くに出かけるだけで、俺達は社畜のように働き詰めの毎日。 それでも友さんがそばにいる職場は楽しく不満に思ったことはない。 でもこうやって二人で出かけると、ふっとした可愛い仕草や、綺麗な所作に目を奪われて、俺は何度となく憧れていた頃を思い出していた。 目を引く容姿に、甘いマスク。煙草を吸う綺麗な指先。 手足が長く細身のスーツが良く似合う。 意志の強そうな瞳はサラリーマンとして憧れの人だった。 まさかそんな上司を好きになり、こうやって付き合うことになるなんて、何が起こるがわからないものだと物思いに耽っていた。 「元希、なんか悩んでる? やっぱり一緒に出かけたの……不味かったか?」 車に乗りこみ不安そうに聞かれ慌てて首を左右に振った。 「違うよ。こうやって友さんと出かけるのいいなぁって思って。憧れだった人が隣にいることに今更実感してただけだから」  じっと見つめる瞳がゆっくりと閉じ睫毛を揺らす。そしてゆっくりと開いた琥珀色の瞳は俺を再び映した。 「……最初はお試しみたいな始まりだったけど、元希と付き合って良かったって思ってるよ。俺さ、今本当に幸せなんだ。スカスカだった心がずっと満たされてる」 恥ずかしそうに頬を染めた友さんは微笑む。 友さんのスカスカだった心。その意味はちゃんと理解している。 その隙間を埋めることができたことに嬉しさが込み上げる。 「友さん、これからもずっと一緒にいて?」 未来なんてわからない。ただ今を大切にしたいと思ってる。その今が積み重なり未来に繋がればいいと願っている。 「ずっと一緒にいたい。何があったって離れたくない。毎日そう思ってるよ」 そう毎日。俺だって同じだ。同じ気持ちでいれば未来に繋がっていく。 見つめ合い絡まった視線に誘われお互いに引き寄せられそうになった瞬間、外で子供の甲高い声が聞こえた。 目を見開き、ぷっと吹き出し笑ったのは友さんだった。 「外なの忘れてた。さて、行きますか!」 薄紅色に染めた頬をひと撫でし、照れ隠しに俺も笑った。
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