12/12

263人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「俺さ……お前が育った場所、見てみたいんだ」 以前も、そう言ってくれていたことは覚えている。ただその時は田舎だから都会育ちの友さんに見せるのはなんだか恥ずかしい感覚が拭えなかった。 「俺には実家ってもうないし、それに親戚ってのも付き合いないし。異質な環境で育ったから……」 両親と過ごしたことのない友さんは、いくら祖父母に愛情をかけてもらって育ったからといつて、親からの愛情というものを知らない。 俺も共働きの両親は不在のことも多かったが、帰ってくることがわかっている不在と、帰っては来ない不在は大きく違う。 「俺は田舎育ちってこと、知られたくないって学生の頃から思ってて……なんて言うんだろうな……劣等感みたいな感覚?かな。 でも友さんには俺の田舎、見てもらいたいって思ってるよ」 次第に近づく実家までの距離。運転席のその向こうは、夕焼けが空を赤く染めはじめ、左右に立ち並ぶ建物、見慣れた景色にほっとするような懐かしさを感じた。 学生時代のテリトリーとでも言える馴染みのあるドラッグストアやショッピングモールが見える。ナビが示すホテルまでの距離をみなくてもその場所を把握できていた。 信号待ちで停車した運転席の友さんの肩を叩き、その先にある学校を指差した。 「あれが俺の通ってた高校だよ」 指先を視線が辿りその先を追うように眺めた友さんはじっと見つめた。 「……この辺もよく知ってるんだ?」 「うん。中学は少し離れてるけど実家から近い高校に行ってたから」 地元ではそこそこの進学校ではあったが、狭い世界から出てみて、田舎の進学校のレベルはそれほど高いものではなかった。 俺の劣等感の始まりはそこからなのかもしれない。 都会の大学に進学し、大きな波にのまれるような感覚に自分を見失わないように必死だったことを思い出す。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加