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「まあ、俺もそうかな……試しに付き合ってみるのは昔と変わらないけど、それはあくまで興味を持った人限定だし。
それに元希とは知ってるけど知らない関係だったから今までとは違う。俺はすんなりお前を受け入れられたこと、いつの間にか離れられなくなったのは、丸ごと好きになってたんだよな……」
いつの間にか離れられない存在になっていたのは俺も友さんも同じなんだ。必要とし必要とされる喜びをこの人に教えてもらった。
それを何度も確認できるのはやっぱり友さんだからなんだ。
「あ、そうだ、今から行く居酒屋なんだけど鳥が美味いんだよ」
話を切り替えたことに友さんはもう過去には触れず楽しみだと綺麗な顔を綻ばせた。
格子になった引き戸を開ければカラカラと音が鳴り、店員の張り上げたキレのいい声が響き渡る。
店内は横に長く、テーブルごとに仕切りが設けられている。通された席のテーブルの椅子の隙間に身体を滑り込ませ、広げられたおしぼりを受け取った。
車だからと言って今日はもう運転することはない。友さんの希望でビールを頼んだ。
「俺はさ、元希がどんな環境で育ってどんな人と関わっていたのか知りたいだけなんだ」
さっきの話を蒸し返すようにいきなり友さんは話し始めた。
「さっきの女性がお前を好きだったってことも俺にとっては嬉しんだよ。俺の元希はモテたんだなぁって」
「昔のことに……嫉妬しないの?」
「まあ、俺の知らない元希を知ってることには妬くかもしれないけど、彼女に妬くことはないよ」
俺の幼稚な感情より、友さんは大人だった。
俺はどうだろう。元カノの影に張り合っていた部分はある。どうしても消せない影に張り合ったってどうにもならないのに、それ以上になりたくて。その影はふとした拍子にひょっこり顔を覗かせることが度々あった。
「過去があるから今が幸せなんだって思えるようになった。それは俺だけじゃなくお前のことも含めてな」
ジョッキとお通しを器用に持った店員は空気を読まず、『へいおまち!』と掛け声と共にテーブルに品を置いた。
俺の地元に来たがったのは、過去を知り今の幸せを実感し、再確認したいからだったのか……
俺が友さんを実家に連れていく戸惑いや不安に思うことは、今は形にしなくてもいいのかもしれない。
友さんはそんなことを望んでいない気がした。
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