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テーブルに頼んだ料理が並んで2杯目のグラスを合わせた。 「俺はさ、爺さんと婆さんが親代わりだったし、勉強ばっかりの学生時代だったんだ。海も山もない所で育って、たまに友達と遊ぶのは決まって家だったし。だからお前の育った環境を見てみたかった。自然に囲まれて走り回ってた元希を肌で感じたかったんだよ」 確かに子供の頃は走り回っていた。野に山に誘われればどこだって行った。 四季を感じられる暮らしが当たり前だと思って生きてきた。 大人になり、田舎育ちを悲観して都会に馴染もうと必死だったことを思い出していた。 育った環境が羨ましく思うのは同じなんだと気付く。 「なんにも無い田舎だけど、俺の育った場所、案内するよ」 俺もさほど旅行なんてしてないが、友さんと二人ならどんな所だって行きたい。美味しいものを食べ綺麗な景色だって一緒に見たい。俺達は四季を感じられる素敵な国に住んでるんだから。 なんてことを密かに思っていた。 「ん。色々連れてって」 盛り合わせられた中の蓮根の天ぷらを俺の皿にのせながら綺麗な笑みを零した。 会話が途切れた時、威勢のいい声の後、案内された集団が俺達の横をゾロゾロと奥の席に向かう。 俺達の席を通り過ぎた一人が振り返り戻ってくる。そして俺達の前で足を止めた。 「……真田じゃん!」 そう声をかけられ俺は声の主を見上げた。 そこに立っていたのは高校時代、出会いを求め日々ナンパに明け暮れていたさっき思い出した友人だった。 「佐藤!」 「久しぶり〜! なんだよ、帰ってきてたの? 声掛けてくれよ〜」 「いや、さっき帰ってきたばっかりなんだ。元気そうだな」 学生の頃より日焼けをした感じのいい男になった友人と会うのは三年ぶりだった。 結婚式の招待状をもらっていたが仕事の都合で行けなかったことを思い出していた。
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