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 居酒屋を出れば暗闇に包まれた辺りは煌々と外灯に照らされていて、また違った雰囲気を見せていた。  並んでホテルへと向かいながら隣を歩く友さんをそっと見る。    それに気づいた友さんの視線と絡まり穏やかな笑みを見せた。  その時、タイの事故での憔悴しきった顔を不意に思い出した。必死で縋る友さんの心の奥底の不安を暴いたような瞬間だった。心の奥底に根付く底知れない不安。 隠して鎮まっていたものが暴れ出し自分でコントロールさえできないもの。  大切な誰かを失う怖さは誰にだってあるが、実際経験した人にしかわからないものもある。  そばでこんな穏やかに過ごせているのも、当たり前のことではなくて一瞬一瞬を大切にしていかないといけない。時間は無限にあるわけじゃない。だからこそ二人の時間は大切にしたい。 涼しい風が潮の香りを含んで肌を撫でる。そんなホテルへの道をゆっくりと何気ない話をしながら歩いていた。 「あっ、あの、すいません!」  突然、俺達の後ろから女性の声が響いた。友さんと同時に後ろを振り返ると走ってきたのか俺とさほど変わらないぐらいの女性が上がった呼吸を整えながら二人立っていた。 「これからどこか行かれます?よかったら飲みに行きませんか?」  上がった息を整えながら誘い文句をストレートにぶつけてきた。あまりにも唐突で思考が止まり友さんを思わず見た。 「おふたりが居酒屋さんにいるのを見かけて、一緒にお酒でも飲めたらって……突然すみません」  背が高めのショートカットの女性は肩で呼吸をしているが、かたやもう一人の女性は息を整え、俺の目を真っ直ぐ見つめ神妙な顔つきで謝罪の言葉を口にした。 「……」 じっと女性を見つめたまま友さんは応えようとはせず、俺は焦るように断りの言葉を告げていた。これから部屋で二人ゆっくりしたいな。なんて思っていたから。 「あ、ごめんね。これから用があるので……」  取ってつけたような断り文句に友さんは驚く言葉を被せた。 「俺達の泊まってるホテルのバーで良かったら」  女性の誘いを受ける言葉を甘い笑みを浮かべ、応えた。 「え?え?友さん?」  笑みを消して歩きはじめた友さんの横を追いかけ、俺達の背後を歩き始めた女性達は可愛らしく歓喜の声を上げた。 「まだ飲み足りないって思ってたからいいだろ?」  ちらっとこちらを見た友さんの表情から何を考えているのか読み取れない。この二人のどちらかが好みだったのか? 上司と部下であっても、俺達は恋人同士だ。逆ナンに応えるなんてあり得ない。だが、友さんは楽しそうに受け答えをしながら俺の隣を歩いている。  何考えてる?女の誘いに応えるなんてどういうこと?  俺は納得のいかないまま友さんの隣でその意図を探っていた。      
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