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ホテルに戻った友さんは預けたカードキーを受け取りにフロントに向かう。
その間、見知らぬ女性と三人でエレベーター横で待つことになった。
「お二人は……観光なんですか?」
俺の肩ほどの身長のクリッとした黒目がちな瞳で俺を見上げた女性はそう俺に問いかけた。
「まあ……そんな所です」
緩く巻いた髪をお洒落に束ねた彼女は可愛らしい笑顔を見せる。その隣のスレンダーな女はフロントから戻ってくる友さんに釘付けだった。
「お待たせ。二階にあるみたいだから行こうか」
そう俺に視線を向けた友さんに無言で頷いた。エレベーターに向き合えば自然と女性二人は俺達の前に立った形となり上へと向かうボタンを押し階を知らせるパネルに視線を移した。
隣に立つ友さんの肩先が触れそっと俺の手を握り締めてきた。
戸惑いながら握り返し掌をしっかり合わせ、その瞳を見つめれば可愛らしく微笑んだ。
その顔は職場では見せない大好きな表情で俺にしか見せないもの。何を考えて女性の誘いに乗ったのかは伺えないが、モヤモヤと渦巻いていた感情を和らげるものだった。
派手に着いたことを知らせる音と同時に離れていった手がそっと背中を押すように触れる。
どこかが触れていればモヤモヤとした感情は薄れるような気がした。
老舗のホテルならではと予想させるシックな作りのバーに入り、思っていたより広い空間と店員のエスコートを受け、四人掛けのテーブルに座った。
飲み物を頼んだ後、テーブルを挟んだ前の女性は真っ直ぐに俺を見つめた。
「お二人はどちらから来られたんですか?」
「あ、東京からだよ」
さっきから気になってはいた疑問に首を傾げる。話しかけてくる彼女は友さんを見ない。見ないわけでもないが話しかけるのはいつも俺に向かってだった。
ちらりと見ればその隣の女性は友さんに釘ずけ……あからさまな態度でこの二人の企みが見えた気がした。
スレンダーな女性(くみと呼ばれていた)は友さん狙いなのか。そして俺の前に座るこの女性(かおりというらしい)は俺狙いらしい。
大方さっきの居酒屋で俺達を見かけ安易に好みを決めて声をかけた感じだろうか。
はっきり言って俺はどちらも好みではない。というか恋人と友さんと付き合い始めて邪な思いで女を見たことがないと気づく。
付き合い始めてから友さんしか見てこなかった気がする。目に入る女性をそんな対象で意識したことがなかった。
……どんだけ惚れてるんだか……
自嘲気味に笑みを漏らし上の空で女達の話を聞いていた。
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