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「私、高校の頃から真田さんに憧れてて……でも真田さんモテるから……告白なんてできなくて……たまたま昨日地元に帰ってきて、居酒屋で真田さんを見かけて……声掛けたんです」
そうだったのか。彼女の真っ直ぐな視線は俺に好意を向けたものだったのか。
「私、ずっと真田さんのことが好きで……今夜だけでも、思い出が欲しいんです。ダメ……ですか?」
突然の申し出に俺は戸惑った。この後二人っきりで……ってことだろう。
恋人と、友さんと二人でこうやって居て、他の女と致す訳にはいかないし、友さん以外の人と行為に及ぶ気はさらさらない。
それに俺達同じ部屋だし。男同士だからあえてツインで予約したが、ダブルでも良かった。いやダブルが良かった。
世間体を考えて病む得ず取った部屋で、隣のベッドで友さんが女を抱く想像をして身震いをした。
そんなの絶対嫌だし絶対ダメだ。
ありえない事を想像した俺の頭は残像を消そうと左右に降った。
視界にバーの入口近くのトイレから出てきた友さんはくみさんと仲良さそうに並んでこっちに向かって歩いてくる。
そう言えば友さんがこんな風に女性と並んで歩いている所を見たことがなかった。
普段着の友さんは細身のブラックジーンズに淡い紫のTシャツ姿なんだけどスタイルが良いから目立つし、栗色の地毛は柔らかい雰囲気を醸し出してる。
身体の割に顔が小さくて歳よりも若く見えていた。
くみさんは友さん狙いってとこだろうか。
かおりさんの誘いを受けてここにいるってことは俺達に興味を持ったんだろう。
左右に頭を振ったことで断られたと思ったかおりさんは身を乗り出し必死に俺に食い下がる。
「今……付き合ってる人とか……いるんですか?」
友さんに見とれていた俺に、目の前の彼女はそう尋ねる。
「そうだね、いるよ」
「……そう……でもっ!……」
切ない表情を見せる彼女の気持ちは計れないが、いくら後輩だからと言っても聞けないお願いだ。瞳をうるませ懇願するかおりさんは普通に可愛い人だと思う。
だけど俺には友さん以外の人と関係を持つ気はさらさらない。
席に戻った友さんは俺と視線を絡ませてやんわりと微笑んだ。
「申し訳ないんだけど、俺達明日が早いからこの辺で……」
友さんは二人を交互に見ながら微笑んだ。
「もう少しお話出来来ませんか?その、お部屋に……」
そう言いかけたくみさんの腕を掴んだかおりさんは言葉を遮った。
『せっかく会えたんだよ?チャンスじゃん』
小声でそう話すけど目の前にいる俺達には筒抜けだった。
『いいの』
納得がいかず不服そうな感じのくみさんは本気で言ってるの?とでも言いたげに、かおりさんを見つめていたが、友さんに抱かれる想定だったことを考えるとその態度に若干引いた。
「……名残惜しいですけど……良かったら連絡先交換してもらえませんか?」
そう言ったくみさんに若干どころではなくかなり引いていた俺は、それは出来ないと言おうとした瞬間、友さんの言葉に遮られた。
「交換はできないかな。俺もこいつも恋人がいるから、悲しませたくないんで」
「でも……」
そう言いかけたくみさんにかおりさんは手を伸ばし左右に首を振った。
「楽しい時間ありがとうございました。またお会いできたら……」
そう言い淀んだくみさんの腕を掴んだまま、かおりさんは溢れんばかりに潤んだ瞳のままにっこりと微笑んだ。
「そうだね。また……」
俺の言葉にかおりさんは一筋の涙を零し頷いた。
バーの外に出てエレベーターの前に立ち二人が乗り込み、向かい合った。
「ありがとうございました。楽しかったです。また……」
小さく手を振ったかおりさんにつられるように振り返した。
扉がゆっくりと締まり、ほっと肩の力が抜けた俺の腕に友さんの腕が絡まった。
凭れるようにちょこんと頭をしなだれさせる。友さんの体温が腕からじんわりと染み込んできた。
周りを見回すことも無く、俺は早く部屋に戻りたくて上へと向かうボタンを押した。
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