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啄むようなキスを落とし、離れていった唇を名残惜く見つめると、その瞳はゆらゆらと揺れ、真っ直ぐに見つめてくる。 想いの詰まったその瞳には俺が映っている。 「せっかくの三連休だから、友さんとゆっくり過ごしたくて……急いで帰ってきちゃった」 なんの返事もせず、そっと肩先に顔を埋めた彼の濡れた髪を優しく何度も何度も撫でた。 俺の存在を確認したいのか、出張から帰るといつもこうやって抱きついたまましばらくの間離れようとはしない。 まだ心に巣を作っている過去のトラウマが見え隠れする瞬間だった。 ……友さん、いつか、笑顔で『お帰り』って言える日がくるといいね…… それでも長い時間、風呂上がりに素っ裸のままいるのはマズいと、友さんの邪魔をしないように羽織っていた薄手のコートを脱ぎ、その肩にかけてやる。 ハッとしたように頭を起こし、頬がほんのり薄紅色に染まった気がした。 ……素っ裸なのも忘れてたなんて言わないよね?…… 素肌に俺のコートに腕を通し前を重ね合わせ身体を包む仕草に、我を忘れて俺の胸に飛び込んで来たのだと、胸の奥がキシキシと傷み、それは徐々にフツフツと沸き立つような熱に変えていく。 この人は俺のもの。そう実感させてくれる瞬間だった。 それは過去のトラウマから今を生き、俺自身を欲しがる友さんの気持ちとリンクしている気がした。 「そのままじゃ、風邪引いちゃう。髪乾かして上げるから服来てきて?」 名残惜しい身体を引き離し洗面所に向かおうとした背中に掠れた声が聞こえる。 「……元希、お帰り」 振り返れば月明かりに照らされ頬を染めた極上の笑顔がそこにあった。
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