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 [え?」 「お前が俺の育った家にただいまって帰ってくる度、感動してるよ」  視線を長閑な風景に移したまま耳をほんのり赤くした友さんが呟く。  俺が感動したその光景と同じように友さんも自分の育った家に俺がいることが少なからず小さな喜びになっているってことか……  過去の記憶に到底いない存在の友さんが、これからの未来には存在していくということ。  それはこの場所を少しでも大切に思っているからこそ、この先ずっと友さんはここに存在していくという嬉しさがこみ上げてくる。 「俺の田舎に友さんがいてこれから何回もこんなに感動できるなんて最高……」 「大げさだろ」  クスクスと笑う友さんだって密かに何回も感動してくれてるなら猶更最高なんだけど。それはこれからの友さんの表情から読み取ろうと思う。うん。 一緒にいることで些細な幸せが至る所に転がっている。  それを一つ一つ拾い集めていくのはなんて幸せなことだろう。  見慣れた景色が色濃くなり始め実家が近くなってことを知らせる。 それを感じ取ったのか徐々に言葉数が少なくなり友さんが緊張しているのがわかる。  そっと掌を差し出して催促してみた。 その意図が分かったのかくすっと笑って掌を合わせ遠慮がちに指を絡めた。 何も話さずただお互いの体温を感じる。それだけですべてが伝わってくるような感覚になる。心配なんかいらないよ……そう念を込めて握り返した。    錆びれた公園の赤い滑り台が視界に入り、久しぶりに目にする馬鹿でかい日本家屋を目指し、友さんの表情を伺いながら左にウインカーを出した。    
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