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 ガレージの開いているスペースに車を滑り込ませた。 「……え?ここ?」 隣で手をつないだまま驚く声を上げる。 「そうだよ。古い家だけど」  俺の実家は田舎特有のどでかい一軒家だけど曾祖父が建てた家を改築、リフォームしながら暮らしている。 「こんな大きな家……元希は坊ちゃんだったのか?」 茶色の瞳を見開き俺を見つめる友さんの『坊ちゃん』という言葉にぷっと吹き出した。 「俺が坊ちゃんならこの辺りの奴らはみんな坊ちゃんだよ」 都会と違って田舎の土地区画は広い。最近建てた家はそうでもないが俺の実家のような代々続く家は比較的大きな家が多い。  そこに三世帯が住んでいるのなんてざらにある。俺の家もそのたぐいだ。 「家っていうか……お屋敷じゃないか」  坊ちゃんやらお屋敷とか、田舎にタイムスリップしたような物言いに笑ってしまう。 「まあ百年近く経っている家だから昔はお屋敷って言われてたかもしれないけど今は普通の家だし。一般的な家庭だよ」  父の代になってからは稲作はしていない。仕事との両立に不都合もあるし、農機具を買うなら米を買ったほうが安い。  趣味でするような規模の田畑ではないため今は専業農家に預けている。    ドアを開けて後部座席から荷物を取り出していると降りてきた友さんが隣にぴたりと寄り添う。不安そうな雰囲気を感じ取る。 「どうしたの?大丈夫。俺がいるでしょ」  優しく微笑むとぎこちなく笑顔を返してくれる。いつものような凛とした 感じではなくどこか儚げで頼りなく感じ、隣の手をぎゅっと握り締めた。 「友さんは俺の大事な人。世界中でたった一人大切にしたい人。どこへ行っても変わらないよ」
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