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 荷物を握り締めたまま見つめ合った。 「甘いな」 「甘い?」 ふふふっと友さんは二人でいるときの柔らかい笑みを見せた。 「そんなに甘やかすなよ」 「甘やかしてなんかないよ。あ、アピールしてるだけ」 なんの?と友さんの口が動いた瞬間玄関のほうから声がした。 「お兄!」  その叫び声で俺たちの視線はその声の方へと向けた。 玄関先で妹が満面の笑みで手を振っていた。 「陽菜(はるな)!」 「あ、え?え?……そっくり」  隣からそんな呟きが聞こえた。  確かに俺達はよく似ていて俺は背格好は父に似ているが顔は母親に似ている。 陽菜は体型から顔、性格まで母親そっくりだ。 サンダルをひっかけた妹は満面の笑顔で飛びついてきた。 「お兄、お帰り!全然帰ってこないんだから!」 そう言いながら小柄な妹はじゃれつく犬のように尻尾を振っているのが見えるようだった。  妹は隣の友さんに視線を移し途端、目を丸くして俺と友さんを行き来しそして発狂した。 「ええ?!お兄どうしたの?このイケメンさん!!」 「さん」を付けただけは良しとしてやろうと思う俺。 「俺の上司だよ。帰省するって言ったら旅行がてら来てくれたんだよ」  妹のキラキラした瞳は友さんをロックオンした。気がした。  そんな視線を気にしているのかいないの爽やかな笑顔で妹に挨拶をする。 「初めまして。清藤友海です」  妹を見つめながら友さんは視線を下げてほほ笑んだ。  「初めまして!さ、真田陽菜です!」 頬を紅く染めた、いや顔を真っ赤にした妹は俺から離れ脱兎の如く一目散に玄関に向かった。 「すみません。騒がしい妹で」  上司と紹介した手前、敬語になってしまった俺に友さんはまた笑った。 「元気で可愛くてモテそうだな」  玄関先に視線を移し、そして友さんは俺の手にそっと触れた。 「まあ、お前が一番だけどな」  妹まではいかないが頬を染めた友さんは「俺もアピールしとくわ」 と言い、荷物を持ってトランクを閉めた。  
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