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実家のリビングは独立型のキッチンから、ダイニングテーブル、十人掛けのソファ、その隣は和室と横並びにかなりの広さがある。
それは実家が本家であり、田舎ならではの親戚付き合いが濃いことにも関係がる。
盆正月の集まりは当たり前。何かにつけ本家に集まり群がることは幼いころからの見慣れた光景だった。
隣から「広いね」と呟きが聞こえ、この広さの理由を話すと相槌を打つ友さん。その隣に座る妹は友さんの横顔に見惚れている。
「陽菜、そんなガン見は失礼だろ」
ハッとして俺と視線がぶつかるが、その表情は一変し冷淡な表情になる。
「お兄ばっかりずるい!」
何がずるいのかはおおよその見当はつくのであえて聞かない。
「まあまあ陽菜落ち着いて。こんな田舎じゃ元希くらいしかイケメンなんていなからねぇ」
褒めてるのか貶してるのか分からない母の天然発言に友さんは吹き出す。
「ふふっ、お母さんの愛を感じるよね」
「そりゃ可愛い長男なものでね。そうそう、今夜は泊まられますよね?お布団は元希の部屋に敷いといたので。ゆっくりしていってくださいね」
二十代半ばの息子を目の前に、『可愛い長男』とのたまう母親。
そんな天然な母をにこにこと笑顔を見せ隣に座る恋人。
なんとも恥ずかしい光景に居たたまれない俺は一泊の荷物を持ち立ち上がった。
「友さん、に、荷物置きに行きましょう。近所、散策にいきませんか?」
空気を換えたくて放った科白に母親の天然が炸裂する。
「まあまあ照れちゃって。可愛いんだから仕方がないじゃないの。さて夕飯は何がいいかしらねぇ……」
独り言のように台所に向かう母を見ながら、友さんがふふっと可愛い声を上げた。
「親にはかなわない、よね?」
そういう友さんに視線を合わせれば「仕方ないよね」と肩をすくめる。
そんなテンパる俺は、やり取りを見ていた妹の存在をすっかり忘れていた。
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