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じっとりとした複雑な視線を無視し、懐かしい自室に向かうべく立ち上がった。
階段を上がり廊下の先、突き当りの扉を開けるとふわっと外からの風を感じる。
母が窓を開け換気してくれていたのか、レースのカーテンがゆらゆら揺れていた。
荷物をぼとりと落とした友さんの瞳がキラキラと輝いている。
「……ここ元希の部屋?ずっと過ごしてた部屋?」
この部屋は一人寝ができるようになった頃から高校生まで過ごしていた部屋。ここで過ごした時間は俺の想い出が詰まっているといっても間違ってはいない。
「そうだね。高校生まではここで過ごしてたよ」
壁に沿って置かれているロングサイズのシングルベッドに腰を下ろした友さんは部屋をぐるりと見回し瞳を閉じ大きく深呼吸をした。
「……元希の匂いがする」
ここを出てから随分と経っているが過ごしたのは俺だけだから。
「臭い?」
「まさか。俺の好きな匂いだよ」
自分の匂いがどんなものなのか分からないが不快な匂いではないことにホッとする。
「ここでずっと……」
そう呟いた友さんの瞳はゆらゆらと揺れていた。
「友さん?」
「あ……ごめん。感動しちゃって……俺、ここに来たかったんだ」
手の甲で目をこすった友さんはゆっくりと立ち上がり、足を進めたのは窓際に置かれた何の変哲もない机を愛おしそうに指先でなぞった。
「大したものはないけどね」
置かれた物ではないことはわかっている。
俺の育ったところにあるものに触れたい感じたいってことだろうことはわかっている。
それに触れることで過去も現在も未来も知れることが嬉しいこと。
俺だって同じだ。友さんのすべてに触れることに嬉しさを感じている。
心にしみ込んでくるような感情に嬉しさや少しの甘酸っぱさに似た感覚で幸せに包みこまれているんだから。
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