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流石に手をつないで出かけるわけにはいかない俺達は、いつもの距離感で玄関を出る。
出かける寸前に母に呼び止められ、夕飯までには帰ってくるように言われる。何も変わらないかのような日常にあった母の科白。
くすっと笑いながら俺も変わらない返事を返した。
西の空に傾きかけた太陽を背に懐かしい道を歩き始める。
俺のテリトリーだった場所に友さんがいる不思議な感覚に戸惑いよりも嬉しさが勝っている。そんなことを思いながら隣の友さんを見た。
田舎の風を気持ちよさそうに、
「空気が澄んでて気持ちいいね」
と、風に吹かれ額を全開に可愛い笑顔を見せる。それだけでドクンと胸が跳ねる。
……おでこを出すと幼くなるんだ……
新しい発見にまた嬉しくなる。
「そうだね。気持ちいい」
手を広げ、大げさに空気を吸い込んでいる俺をにこにこと笑顔を見せている友さんに首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、なんだか嬉しくて。夕飯までに帰って来いって……なんだか家族みたいでさ」
いつもと変わらない日常に相変わらずだと思った自分とは違い、何気ないことでさえ友さんにとっては新鮮なのかもしれない。
親の愛情を知らない友さん。祖父母の愛情はあったとしても、日常のささいな親の愛情を感じてくれている。
「家族でしょ。俺の大事なパートナーなんだから」
そう呟いたと同時に、ピタッと動きを止め真顔で俺を見つめる。
「お前の育ったところがみたい、それだけでここについてきたのに」
「ここはこれから友さんの田舎になるんだよ。「ただいま」って帰れる実家だから。いつか、親には理解してもらえるように頑張るつもりだし。これからここに帰るときは友さんも一緒だから」
「……さっき途中で止めたからか?」
「へ?」
「悪いけど流石に今日はサービスはできないよ」
友さんはクスクスと笑う。……ああ、そういうことか。
盛りのついた猿……さることながら盛った俺を寸止めしたことをいっているのか。
まあ、いつでも友さんに盛っているわけだけど……
「え、いや、そりゃ、だけど、友さんがいればいいわけだし」
「はははっ、テンパってる元希は可愛いねぇ」
「可愛いのは友さんだし!」
「ありがと。嬉しいよ」
肩先に自分の肩先をコツンと当ててくる。そして俺もそれを返した。
何も飾らない素顔のままの友さんはとてつもなく愛おしかった。
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