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 道なりに歩きながら、時折遊んだ所や秘密基地の場所など昔を思い出し、懐かしく思いながら伝えていく間、近所の人達に幾度となく声をかけられた。 「凄いな。皆元希のこと知ってる」  田舎ながらの光景は友さんにとっては初めての経験だったのかもしれないな。声をかけられる度、 『イケメンさんねぇ』 『イケメンが歩いてくるからびっくりしたよぉ』 等々、お世辞を盛り込まれた挨拶の度、友さんは面白そうに微笑んでいた。  俺はその度、友さんの初めて見る表情に心が満たされる感じさえしていた。 ここに連れてきてよかった。心からそう思った。 「まあ、狭い場所だからね」   幼い頃は親だけではなく近所の人達にも育てられたようなものだ。 親が留守にしていてもいつも誰かが見守ってくれていた。そんな環境は当然ではないということに気が付いたのは実家を離れた頃だった。それ程、幸せな環境で育てられたんだと痛感したことを思い出す。  そしてたどり着いたのは緑地公園。ここは学生時代陸上部のグラウンドがある。 部活に明け暮れた学生時代の思い出の場所。 「ここは部活に使ってたグラウンドがあるんだ。毎日ここで走ってたんだよ」  緑がアーチを作る道をくぐり、見慣れた場所が見え、胸が躍るような感覚になる。  走ることが好きだった俺。もちろんスランプもあったがここに来ると毎回この感覚になる。俺の原点になっていると思っているからなのかもしれない。  そんな感傷に浸っていると、隣でいきなり屈伸運動を始める友さんに唖然とする。 「どうしたの?走る気?」 本格的に準備運動を始めた友さんに声をかけた。 「準備運動は大切だからな」 と言いながらいたずらっ子のようににやりと笑った。 「元希、勝負しようぜ」  少年のように挑発するような言葉を吐き、ゆっくりと走り出す。 「しっかり準備運動しろよ。怪我のもとだからな」  まるで先輩かのような口ぶりに慌てた俺は、戸惑いながらも身体が覚えている準備運動を友さんの様子を眺めながら始めた。  
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