可愛い秘密 真田side⑴

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可愛い秘密 真田side⑴

二週間の出張から深夜に帰国した俺は、早く友さんの顔が見たくて急いでタクシーに乗り込んだ。 主任になってからというもの、タイへの出張が多くなった。 大抵一週間程度で帰ってくるのだが、今回は大幅に延びた出張だった。 タイでの事故から友さんの心配性は加速して、毎日の業務報告以外に出勤前、昼休み、帰宅後にはお互いに電話を入れるようになった。 同じ会社で働いてると業務中でも堂々と電話に出れるという利点があり、何時でもどこでも友さんの声が聞ける素晴らしい環境だ。 タイにいても私用で出かけることもしないし、せいぜい現地社員と屋台に行くぐらいなのもで、出歩くのなら友さんと話していた方がいい。なんて、まだまだ俺の友さん熱は冷めてはいない。 帰国は明日の予定だと友さんには伝えている。たまには驚く顔も見てみたい。なんて思ったりして今日の便で帰ることにしていた。 飛行機に乗り込んだ俺は、それはそれは友さんの驚く顔が脳裏に浮かんではワクワクニヤニヤが止まらなかった。 終業時間に業務報告をした際、今夜はタイ社員と食事に行くので遅くなることは伝えている。 その時間、既に俺は空港近くにいた。日本時間で午後七時。約六時間のフライトで日本に着くのは深夜になる。 こっそりと忍び込んで、友さんが朝起きた時には朝食を作ってあげたいと思っていた。 寝室のドアを開け、キッチンに現れた友さんの驚く顔を想像するとニヤけてしまう。 機内で襲ってきた睡魔で仮眠を貪り、着陸寸前に目が覚めた。 ひんやりした初秋の空気に日本に帰ってきたと浸ることも無く、急ぎ足でタクシーに飛び乗り、そして俺達の家の百メートルほど手前で降りたったのだ。 時計を見れば予定通り日付が変わる時刻を指している。 玄関ではなく、中庭にある扉をそっと開け、二階に繋がるドアに鍵を差し込みゆっくりと回す。 階段横のスペースにキャリーケースを置き、金属でできた階段を足音を忍ばせて登っていく。 中庭から二階を見上げた時、寝室の照明は消えていた。 明日は三連休一日目。普段なら二人で酒でも飲みながらゆっくり過ごしている時間だが、独りで過ごす友さんは眠っているのかもしれない。 可愛い子達を抱き枕かわりにし、壁に背を向け広いベットに俺のスペースを空けて眠る友さんの姿を想像すると胸の奥にツキンと痛みが走った。 全て二人で生活をするために備えたものは一人で使うには持て余すだろう。 それでも大人の俺達は寂しさを我慢しなければいけない現実。 愛する人は上司。部下である俺に友さんは寂しい寂しいとは嘆くことはしない。 雄弁に語る瞳を見れば寂しさは充分に伝わってくるんだけど。 ドアを閉め、リビングに繋がる廊下を息を潜め忍び足で急ぐ。 ガラス張りの廊下の外に繋がるベランダから月明かりが足元を照らしてくれる。 見慣れたリビングとその先にある対面キッチン。肩にかけていたバックを床に置き、ソファにそっと座り身を沈めた。 ……やっと友さんの元に帰ってきた。 安堵の溜息を深く吐き、瞳を閉じようとした瞬間、廊下の先にある浴室の扉が開いた。
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