あいまい傘

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「そういえばさ、最初に言ってた『いいこと』って、人目を隠せるってこと?」  傘を回し、靴をぐつぐつと鳴らしながら聞く。傘は青空が見れたことで上機嫌になったらしく、さっきよりだいぶ弾んだ声になりながら言った。 「違う。んー……そうだな、そろそろだぞ」 「なにが?」  その途端。  あたりが突然暗くなり、さっきより数段ひどい夕立が降り注いだ。  あまりの雨の勢いに、押しつぶされるかと思ったほどだ。  雨で視界が悪く、音も書き消されているが突然の雨に周りの人も右往左往しているようだった。このあたりに雨宿りできそうな場所はない。鞄で頭を隠す人、さっきの僕のよう諦めて濡れ鼠になっている人。自転車に乗っている人はおでこの辺りを抑えてなんとか視界を確保しようとしている。 「さっきまで晴れてたのに」  僕が呟くと、傘は言った。この雨音の中でも、なぜかその声ははっきり聞こえた。 「そんなの、理由になるかよ」
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