あいまい傘

5/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 雨は5分もしないで止んだ。小雨を忘れたように突然雨が止まって、見上げると雲一つない晴天だった。 「見事な空だ」  傘が言った。 「確かに」  雨が止んだので傘をたたもうと手が動く。けれど、途中でそれを止めて、また頭の上に持っていった。 「なにしてんだよ」 「さてね。日傘の代わりにならないかと思ってさ」 「なるもんか」 「それは残念だ」  気にせずに笑いながら歩き始める。すると。 「……あ、海の匂い」 「あんだけ降って、満足したんだろ」 「かな? なんか、このあたりが一回海の底に沈んだみたいだ」  濡れてないものがないほど、あたりはびしゃびしゃだ。  魚が跳ねていてもいまなら「そっか」と当たり前に受け入れられそうな気がする。 「さて」  いきなり傘が言った。 「ここでお別れだな」  僕たちの目の前にゴミ置き場があった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!