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当たり前というか、水浸しになっているとこに傘を置く。たたんで、折れているところを前にして立てかけた。
「思えば」
この数分で50は老けたような、達観を感じさせるような静かな声で、傘は言った。
「傘立てがあるような場所は外だったり、透明な仕切りに区切られた場所だから、空くらいならいくらでも見れていたんだよな」
「見てなかったんだよ」
「いつでも見れるから、忘れてたんだよな」
「それで、じっくりみた空はどう?」
「そうだなあ」
少しだけ、傘は唸った。
「今日特別、綺麗に見えるねえ」
そのあと、すっと、傘からなにかが抜けたような気がして思わず手を伸ばしていた。当然なにもつかめず、そもそもなにも出ていなかったのかもしれないけれど、その感覚のあと、傘はなにもしゃべらなくなった。
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