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眠る子を起こさぬよう、ゆっくりとその場をあとにする。さっきまで餌を欲しがる魚のように鳴いていた靴も、なぜか少しの間だけ静かだった。
水に沈んだように濡れた場所を、日が照らす。地面がそれらを反射するもんだから、まぶしくて仕方なかった。
前を見ても、まだ明るい。仕方なく、上を向いた。
きれいな空だ。
「……そういえば、僕もあんま見てなかったなあ」
傘は晴れの日に下を向いていたと言っていたが、僕は晴れだろうと雨だろうと、下を向いていた。
確かに悪くないが、特別綺麗と呼べるものでもないような気がする。
ふと、傘の見ていた……と思われるほうを見てみた。そこで、特別綺麗の意味を知った。
虹がかかっていたのだ。
もう子どもでもないので見慣れているものだけれど、それでも見れるとなんとなく嬉しく思えてくる。
残念ながら虹はすでに消えかかっていて、はっきりとは見えなかった。あの傘が見たときが一番綺麗なときだったのだろう。
見たかった、と思いつつ、あまり後悔はしていなかった。
きっとこの先、いくらでも見る機会があるだろう。
雨上がりの日も、晴れた日も、きっと僕の目は上を向いているのだろうから。
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