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【 プロローグ 】
「わぁ~、気持ちいい~」
君はそう言って、両手を広げながら、この茜空を見上げ、僕の前でスキップをしている。
足元の水溜りに、ピチャピチャと音を立てながら、彼女の少し汚れてしまったパステルブルーの靴が踊る。
彼女の頬に落ちる天からの雫が、一粒一粒、同じ茜色に光り輝いて、肌を跳ねた。
西の空は明るい。
あんなに降っていた雨も、今は細かいシャワーのよう。
僕は思わず目を細めて、頬が高くなる。
2、3歩離れたところから、君が突然振り向くと、雨に濡れた短い栗色の髪から、キラキラと雫が散った。
「私、早く大人になりたい」
そう言って、彼女は唇を噛んだ……。
――でも、君はもうここにはいない。
君の笑い声が聞こえなくなった世界で、
数を減らした蝉の鳴き声だけが、切なく詩を歌っている。
~10日目の蝉~
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