プロローグ

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プロローグ

 高校一年生も終わりを迎えようとしたとき、転校生がやってきた。  その転校生、一色周(いっしきあまね)が静かに一礼すると烏の濡羽色の髪の毛が垂れた。クラス中の男子がその峰麗しい少女に釘付けだったに違いない。  そんな彼女が小さな口を開いた。 「私は生まれつき色覚異常があります。全色盲のため白と黒と灰色しかわかりません。なので私になにかを伝える際は色彩要素ではなく造形や性質で伝えて欲しいと思います」  言い終えて、また一礼した。担任の志倉はやや苦い顔でため息を吐いていたが、すぐに気持ちを切り替えたのか一色に「最後尾の窓際に座ってくれ」と言った。  彼女はすまし顔で机と机の間を歩き、俺の隣の席に腰掛けた。切れ長の目はとっつきづらい印象を与えるが、整った鼻梁と細い顎も相まって美少女と言って差し支えない。  ふと、目があった。  一瞬だけ心臓が強く脈打ち、次の瞬間にはゾクッと背筋が冷たくなった。 「なにか用?」  知らずのうちに凝視してしまっていたらしい。 「いや、教科書あるのかなと思って」 「教科書はちゃんと買ってあります。筆箱も忘れてないので大丈夫です」 「そうか、それならいいんだ。なにか困ったことがあったら言ってくれよ」 「ええ、なにかあったら頼らせてもらいます」  彼女は黒板の方へと視線を戻す。その姿もまた美しく所作に暇がない。だからこそ近づきがたい雰囲気なのだが、背筋が冷たくなった理由は別にあった。  目つきが鋭い、悪い言い方をすれば目付きが悪い。そしてそこから覗く真っ黒な瞳に恐怖を感じたのだ。ただ目を合わせただけでなにかをされたわけではない。けれどそこには明確な拒絶を感じた。目が細められ、若干だが眉間にシワが寄っていたのを見逃さなかった。  俺もまた黒板に視線を戻し、頬杖とため息を同時についた。その状態のまま、横目で一色を見た。触れるな、見るな、話しかけるな。まるでオーラが全身から吹き出して、そのせいで空間が歪んでしまっているようだ。本当にそうなっているわけではないが、少なくとも俺にはそういうふうに見えてしまった。  この女は俺とは違う。嫌なことは嫌と言い、ダメなことはダメと糾弾できる。あまりにも違いすぎて逆に清々するくらいだ。  きっと関わり合いになることはないだろう。相手も同じ気持ちであれば俺たちに親交は芽生えない。それでいいのだ。俺たちはそうあるべきなのだ。
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