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耳に馴れて来ると、雷の音も気にならなくなった。そう思っていると、ぱっと空が明るくなって一瞬稲光が縦に走り、すぐに激しい雷鳴が長く遠く響いた。雷雲はすぐ近くにあるらしい。雨はますます強くなっていた。
千夏とは居酒屋のバイトをしている頃に出会った。後から入ってきた学生バイトだった千夏の指導係を任され、親しくなった。律は勤めていた小さな広告会社の経営が厳しくなり、人員整理で自主退社という形になって、バイトで食い繋いでいた。
広告にこだわりがあって勤めた訳ではなく、内定が最初に出た事で決めてしまった会社だった。その頃はまだ実家に戻りたくない気持ちが強くて、残っている為の方便のようなものだった。
居酒屋の接客に多少は広告の営業経験が活きた気もした。千夏は身長こそ大きいけれど世慣れしていない感じで、律の冗談も最初は鵜呑みにしたりしていた。飲み込みは速く、すぐに人気店員になった。
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