雨上がりの、濡れたキミ

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 もう一度手が飛んできたが、律はそれを片手で掴んだ。バランスが崩れた大柄な身体を、律はそのまま受け止めた。 「どうして一人で決めちゃうの?相談してくれないの?」  真摯な瞳でそう問われると、律はどうにも言葉に困った。いつもこの調子で、返す言葉が無くなって行く。打たれた頬が今頃痛んだ。 「痛いよ」 「何言ってんの、わかんない」  千夏は泣き始めた。泣きだすと暫くはどうにもならないのを、律は知っていた。  捉まえていた細い千夏の身体を、ぐっと律は抱き寄せた。千夏の濡れたワンピースの水分が、律のTシャツに、ジーンズに伝わった。そしてまだ荒い呼吸の奥の鼓動も、律の胸に伝わってきた。それは千夏の涙の全部が、伝わってくるように律には感じられた。千夏は泣き続けていた。濡れた路面から、太陽に照らされた熱気がせり上がってくる。 「もう引っ越し業者が来る」
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