プリンひざ

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プリンひざ

 捨てきれない荷物の重さまえうしろ。  右ひざが爆発した。めっちゃ痛かった。  右ひざの肉がすべて飛び散り、関節の骨の接合部分がムキ出しになった。ひざから上下10センチは完全に骨だけとなった。それでも不思議なことに膝蓋骨(しつがいこつ)はひざの位置に吸い付くようにあり続け、大腿骨(だいたいこつ)脛骨(けいこつ)のデコとボコが合わさる形でひざはきちんと機能した。曲げ伸ばしもスムーズにできた。跳んだり跳ねたりしてもひざの骨の合わさりが外れることはなかった。  とはいえ、このままではいつ骨同士が離れてしまうかわからなかったので、このひざの部分に軟骨以外の接着剤が欲しいなぁと思った。がっちり固めるのではなく、シリコンのように柔軟性のあるやつが欲しかった。  ふと見ると右手にプリンを持っていた。膝蓋骨を外し、俺は持っていたプリンをひざ関節の大腿骨と脛骨の合わさりの部分に乗せた。  関節に置かれたプリンはプルプル震え出し、関節の隙間に浸透するように崩れた。大腿骨と脛骨の丸みに馴染むように溶けだして、やがて元あった筋肉のようにひざ関節を覆った。卵色のクッション材よろしく、すっかり筋肉の代替品として定着した。  するとどうだろう。さっきまでジンジン痛かったひざの痛みが嘘のように無くなった。曲げ伸ばしも、なんなら筋肉があった時よりスムーズになった。試しに走ってみた。明らかに速くなった。プリンのひざである右足で地面を蹴った時の跳躍力が格段に違った。  これはすごいことだ。  俺はこのすごさを世界に知らしめたいと思った。そこで大枚はたいてボルトを日本に呼び、100メートル競走を行うことにした。テレビカメラを入れ、世界同時生中継でセンセーショナルなニュースにするつもりだった。  しかし、リハーサルでボルトをぶっちぎったところ、ボルトが、 「シャレナランワ」 と言って泣き出したので、なんだか可哀相になった俺はショーを取りやめにした。  当然、テレビ関係者は激怒した。大勢の人が俺をとっ捕まえようと走ってきた。俺は一目散に走って逃げた。プリンひざのおかげで、ぶっちぎりの走りで逃げることができた。しかしその後も、テレビ関係者の怒りはなかなか収まらず、逃げても逃げても追いかけてくるのであった。  野を超え、山を越え、海まで超えて、俺は今も走り続けている。    おわり
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