11人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
休みのたびに東京に帰ってくる…なんてことは、言わない。
だって、一年目のルーキーがそんなことしてる余裕はないはずだから。
那奈も、新卒一年目なんだから、状況は同じ。
多分、ここからの数年は、俺たちにとって正念場だ。
でも、ちょっとワクワクしてる。
幼いころに夢見た、プロのサッカー選手という道に、俺は一歩を踏み出した。
これから、どこまで進んでいけるわからない。
でも、俺の人生の隣には、もう一本の道が並行して続いている。
隣の道の主は、俺の最愛の人。
高校で俺たちは出会い、仲間として三年間を過ごした。
その後、恋人同士として…時には重なり合い、時には距離を置き、でもずっと並行して歩き続けてきた。
ここから、ちょっと二本の道は離れるかもしれないけれど、近い将来またきっと、寄り添い合える時が来るだろう。
その時に、胸を張って那奈の隣に立つために、俺は俺のやるべきことをやらなきゃいけないと思う。
とにかく少しでも早く正キーパーのポジションを取ること。
実績を積んでいけば、数年後には移籍の可能性だって出てくる。
それが関東圏とは限らないけれど、でも自分の可能性を自ら狭めるようなことは絶対にしない。
将来的には、東京の空港の近くに家を構えて、俺がオフのたびに戻るような生活もありかもしれない。
絶対に手放さないと、決めたんだ。
サッカー選手は、装身具を身につけることは認められていない。
実際危ないしな。
相手も、自分も。
キーパーはグローブを必ず着用しているけど、中に指輪をしてたりしたら多分自分が怪我をして終わりだ。
だから、俺は何もつけられないんだけど、那奈には高価すぎないリングを贈った。那奈の勤め先は、華美でなければアクセサリー可だったから。
那奈はちょっと嫌がったんだ。
人の怪我を処置する仕事だから、指輪をして仕事はしたくないって。
でも俺が押し切って、ネックレス用のチェーンもそろえて贈った。
仕事中は胸から提げてくれてもいいから、プレイべートでは付けていてほしいと思って。
まだまだ、ほんものを贈る力はないけれど、いつか…とは思ってる。
俺たちの歩む道は、まだまだ続いていくんだから。
どこまでも隣を行こう。
最初のコメントを投稿しよう!