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でも、やっぱり俺が地方のプロチームからの誘いを蹴ったこと、知られてたんだな。
誰から聞いたか…とか問い詰める必要はない。
多分、コーチか…親しくしてる部員の誰かが、那奈にチクったんだろう。
俺のことを、説得してくれるんじゃないかと期待して。
完全に俺が悪い。
俺が彼らの忠告をちゃんと聞かなかったから、最後の頼みの綱としてみんなは那奈を頼ってくれたんだ。
「…ごめんなさい。もうしません」
そこは俺が反省したことを分かってくれているんだろう。
那奈も笑って頷いてくれた。
北見家に着くまでに、俺たちはいくつかの約束をした。
会いたいときは、会いたいと言うこと。
言われた方は、「OK」か「嫌」か「無理」かを答えること。
嫌な理由は、言っても言わなくても構わないけれど、無理な時は理由と代替案を示すこと。
そんな事務的な話をしているうちに、那奈の色っぽいけだるさがちょっと薄れてきてホッとする。
かなり前、拓人からメールをもらったことがあった。
『件名:ホント余計なことなんすけど
本文:夕方遅くに帰宅するのに、よそのシャンプーの香りとか結構気になるから気を付けた方がいいかも。
今日は俺しか家にいなかったからいいけど、多分親は気づくから。
あとあんまりきれいに化粧直しして帰ってくるのも不自然』
自分への戒めに、フォルダーを分けて人目にはつかないようにして保存してある。
俺は部活のあとシャワールームで汗を流してから動くのが通常だから、全然気にしないでいいんだけど、確かに普通の女の子はそうだよな。
それ以来、あまりあからさまにならないように、那奈には香りのするものを使わないように誘導してきた。
ただ、やっぱり長時間ああいうことをした後は、どうしても雰囲気がな。
だったら、早めに切り上げてあげればいいんだけど。
北見家の玄関前で、もう一度那奈の全身をそれとなく確認して、不自然さがないことをチェックしてから手を振った。
駅まで軽くランニングで煩悩を退散させる。
明日、監督と話をする内容を、ちゃんと頭の中で整理しておかないと。
…かなりやばめの遠回りをしたけれど、ここからだ。
そんなことを思いながら、自宅に向かった。
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