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エピローグ
結局俺は、最初から声をかけてくれていた中国地方のプロチームに進路を決めた。
コーチからは、頭をはたかれた。
『ようやく本来の顔に戻ったな。
…もうちょっと待ってダメだったら、切るつもりでいたぞ』って。
ああ、やっぱりこの人が那奈に助けを求めてくれたんだなと思ったけど、言わなかった。俺が心の中でちゃんとわかっていればいい。
数年後に、俺がチームで正ポジションを取って見せてやるのが、最大の恩返しだ。
監督からも。
『入試のときの真摯な木村とまた会えたようで、うれしい』なんて笑われた。
…黙って頭を下げることしかできなかった。
卒業間際には、首都圏のチームからも声がかかったんだ。
でも、やっぱり強いチームには強い選手がたくさんいてさ。
大学サッカーからプロ入りする選手は、いわゆるスター性のあるルーキーではないんだ。プロチームの下部組織からそのまま上がってきた、各年代のトップ選手が一人二人絶対にいる。
キーパーは、年によってはそういう新人がいないことも多いけど、逆に外国人選手も含めてベテランが数人いる。
そういう層の厚いチームに参加することで、ブラッシュアップはもちろん望めるだろう。
でも、俺は試合に出場したいんだ。
そして殿前や今のチームに愛情をもってかかわっているように、できれば長い期間一つのチームに所属していたい。
チームの顔…とまでは望まないけれど、自分の居場所としてちゃんと人間関係を気づいていきたいんだ。
だから、俺が那奈のことでドツボに嵌まって戦績を落としたときにも、心配して声をかけてくれたりしたチームに、自分を預けることに決めた。
ちょうど、長くレギュラーだったキーパーが引退を考えていて、世代交代の時期。
数年経験を積んだ頃には、うまくいけば正キーパーを取れるんじゃないかという目算もある。大学チームの情報担当も俺と同じ意見だったから、間違いないだろう。
もちろん確証はない。
俺以外にも、もっと力のある新人が参入してくるかもしれないし。
ベテランを獲得するかもしれない。
でも、一番可能性が高いところで頑張ろうと思うんだ。
ちなみに、狙ったわけではないんだが、俺の母親の実家のある県だ。
そのことへの親近感も、ちょっとあったかもしれない。
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