エピローグ

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何度かしか会ったことのない母の姉さんが一人でずっと実家を守ってくれていて、俺がプロ入りして近くに住むことを本当に喜んでくれた。一緒に住んだりするほどの関係じゃないから、俺が時間のある時に様子を見に行く程度になるだろうけど。 東京から、飛行機で約二時間。 こっちの空港からは、車で15分くらい。 遊び歩くつもりはないし、免許も取らないままでいいかなと思ってるんだけど、どうだろうな。 東京で生まれ育つとそんな感覚だけど、母には微妙な顔をされた。 『まぁ、行ってみて必要ならとればいいわよ』とか言ってたけど。 近所の買いものくらいなら自転車でいいんじゃないのかな。 そもそもチームには独身寮があって、食事の心配はない。チーム専属の管理栄養士も付いてくれてるし、時間さえ守ればバランスの取れた食事が毎食用意してもらえる。もちろん寮費は払うけれど、チームからの補助もあるから高額ではない。 生活環境としては、最高だ。 問題があるとすれば、たった一つ。 俺にとって、ものすごく重要な大問題。 そう、東京で私立中高一貫校の養護教諭として就職した那奈と、会えなくなること。 もう、本当に何度も何度も話し合った。 那奈の傍にいるために、東京のチームを選ぼうかと、本当に揺れた。 ほかに選択肢がないなら諦めるんだけど、選べる状況になってしまったから。 でも、春先の事件から得た教訓は、俺にとってすごく大きなものだったし、もう二度と那奈に愛想をつかされるような行動はとらないと、心に決めていたから。 那奈のこと以外に、東京残留を選ぶ理由がなかった。 悩みに悩んで、地方に行くことを決めて、チーム担当者にメールで意思表示をした直後に那奈に電話で伝えた。 「…行くことに決めた」 伝えたのは、それだけ。 那奈は、俺が迷っている状況も、その精神状態もちゃんとわかって待ってくれていたから。 「…ん。わかった。 応援する」 と、それだけ返してくれた。 那奈からも、最初から強豪チームに参入して、言葉は悪いけど飼い殺される危険を冒すよりは、世代交代が見えている地方のチームで出場経験を積んだ方がいいと意見をもらっていた。 翔平にも拓人にも、酒井監督にも意見を聞いた。 みんな同じ答えを返してくれた。 俺だって、もちろん同じ考えだ。
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