最恐の男

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「いえいえ。自分の不注意でダメにしてしまったので。本田さんに新しいものをいただいた挙句、処分までお願いするのは……」 「いいよ。そんなことは気にしなくて。本田さんには俺から改めてお礼をしておくから。前回の女性社員の件でも世話になったし。それ持ったまま社長室まで行けないだろ?」  睦月は空気を和ませるかのようにクスクスと笑った。それから「まあ、相手は拓也だからいいっちゃいいけどな」とからかうように言えば千愛希はむっと唇を尖らせた。 「さすがにそのまま社長室には行きませんよ。ちゃんとロッカーに寄ってですね」 「はいはい。はい」  睦月はドア付近に置いてあったゴミ箱を差し出した。片手で持てる大きさの簡易的なものだった。応接室を使用すればすぐに片付けるのか、中は空だ。  千愛希はふうっと息をつくと「ストッキングを他所の部署に捨てるなんて失礼な話ですけどね」と肩をすくめた。 「ここの責任者は俺だし。じゃあ、俺が責任もって片付けるよ」 「曽根さんが?」 「そう、俺が。変か?」 「副社長がなにしてるんですか」  千愛希は、社内のゴミを回収していく睦月の姿を想像して思わず笑った。おかしそうに笑う千愛希の笑顔に睦月はだらしなく頬が緩む。 「俺だって清掃くらいするぞ。部署を綺麗に保つのは俺の役目でも」 「あのダンボールを片付けられない人がですか?」 「だからそれは……」  それは、こんなこともあろうかと思ったからであって決して片付けが苦手なわけじゃ…… 「脱いだ服も脱ぎっぱなしですからね、貴方は。説得力に欠けます」  眉を下げてそう言う千愛希にとくんっと胸が小さく疼いた。
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