視線の先

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 千愛希が律に続いて階段を降りると、長い髪の後ろ姿が目に入る。  ナチュラルブラウンの腰まである髪。それを後ろで1つに束ね、毛先を揺らしていた。 「まどかさん!」  千愛希は思わず叫んだ。その声に反応して振り返った女性は、にっこり笑って「千愛希ちゃん、こんばんわ」と言った。  千愛希と律よりも3個年上の(にのまえ)まどかだ。律の方がまどかよりも誕生日が早いため、2つ違いになる時もあるなんて律の弟の(あまね)が言っていたが、学年でいうと3つである。 「まどかさん! まどかさん! 今日もお綺麗です! ああ、なんて美しいんでしょう!」  千愛希は恍惚の表情を浮かべて、まどかに駆け寄った。飛びかからんばかりの勢いを孕んだ千愛希の腕をパシッと掴んだ律。 「おとなしくしてな」  ピシッと低い声で言われ、『待て』をされている犬のようにその場で静止した。 「相変わらずだねぇ」  まどかはすっかり慣れたように笑う。皿を並べて夕食の支度を手伝うまどかは、視線をテーブルに戻し残り1枚の皿をそこに置いた。 「千愛希さんこんばんわー」  リビングの方から声がし、律と千愛希が視線を移すと、ソファーに座ってひらひらと手を振っている男がいた。  律の弟でまどかの夫にあたる周である。はっきりとした目元に、毛の細い髪。律と同じほどの長身は、並んでいればすぐに兄弟とわかる。ただ、律よりも大きな瞳は幼い印象も与えた。 「周くん! 元気?」 「元気、元気。2ヶ月振りくらいかな? なんか久しぶりに会った気がする」  人懐っこい笑みを浮かべる周は、冷淡に見せる律とは正反対である。
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