見据える未来、払拭できない過去

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「律ー! 飲んでるの? 飲んでないの? もっと、もっと飲も?」  ふふっと子供っぽく千愛希が笑った時、ようやく律はあれ? と首を傾げた。 「千愛希、酔ってる?」 「酔ってない、酔ってない。私ね、強いからね」  へらへらした千愛希を見て、ああ……酔ってんな……。と納得した律は、早々に店を出てタクシーを呼んだ。 「律ー! もっと飲もうよ、まだ帰りたくないー」 「ダメだって。そんなに酔ってんのにこれ以上は飲ませられないし」 「なんだとー! 男のくせに、だらしないぞ!」 「もう……勘弁してよ。男だとか女だとか言われるの1番嫌いでしょ?」 「お! さすが律! 私のことわかってる! 律、大好き」  にんまり笑った千愛希が、こてんと頭を律の腕に預けた。その瞬間、律は小さく息を飲んだ。  無防備……だな。いくら俺のことを男として見てないからだってわかってても心配になるレベルだ。他の男なら勘違いするぞ……。 「ほら、送ってくから」 「あー、いいや、いいや。タクシー来てくれたからやっぱり1人で」 「1人で帰れるの?」 「うんうん、大丈夫よ。いつも1人だから。お家も1人だし、これからも1人……」  陽気な千愛希がふっと視線を落とした。律はその先に、誰かがいるような気がした。自分じゃない、他の誰かが。 「いいよ。やっぱり送ってく」  律はそう言って一緒にタクシーに乗り込んだ。1人にさせたくないと思った。なぜかはわからなかったけれど、1人にさせたら千愛希が律ではない他の誰かを求める気がした。  それは女友達かもしれないし、社長の大崎かもしれないし……あるいは、元婚約者かもしれない。酔った勢いで連絡を取るかもしれない。いつもの冷静で頑固な千愛希なら絶対にそんなことはしない。けれど、今は違うかもしれない。そう思ったからだ。
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