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「律……?」
「ちょっとこうしてたら落ち着く?」
「ん……ごめん。やっぱりちょっと、酔ってるみたい」
「そうみたいだね……。話、聞く?」
「ううん……大丈夫」
千愛希はそう言って顔を伏せたまま。散々色んな文句を言って、仕事も社長も社員も言いたい放題言われていた。
それなのに、泣いている理由は話したがらない。
誰になら話すの? 俺はまだ信用ないってこと? 恋愛感情はなくても俺達は一応付き合ってて、男女であっても親友に近い存在だと思ってたのに……。
泣きたい時に思い切り泣かせてやることも、話を聞いてやることもできない……。
律はぐっと切なくなった。もっと頼ってほしいと思った。こんな時ばかり遠慮せず、何もかもぶちまけてしまえばいいのにと。
「……何で泣くの?」
律は口を開いた。待っていても教えてくれそうにはなかったから。その向こうに踏み込む必要はなかった。千愛希が話したがらないなら、彼女から言ってくれるようになるまで放っておけばいい。いつもの律なら確実にそうしていたし、興味だってなかった。
だけどなんとなく思う。誰かになら言ったかもしれない……。
それは誰なのか。1番近くにいるのは自分なのに、心の内を全て打ち明けられるのは自分じゃない。
「泣いてないよ……」
「うん。……寂しいの?」
「……ううん」
「辛い?」
「ううん……平気……」
「そっか……」
一向に言うつもりのない千愛希。律は抱き締める腕に力を込めた。その瞬間、「ん……」と息が漏れる、籠った声が聞こえた。
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