見据える未来、払拭できない過去

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 あの時仕事量を減らしていたら、今も一緒に仕事ができてたかな。家で会って、睦月の仕事の愚痴でも聞いたかな。  社長と睦月と3人で出かけ、時には他の副社長も交えて食事して身になる話を聞いて、充実した生活を送っていたかな。明日の結婚記念日を笑顔で迎えていたかな。  あんなに自分のことを好きになってくれた人に寄り添えなかった。だからこの先1人なのは仕方のないこと。  律は人として好きだから側にいてくれると言ってくれた。けれど、律に対しても恋愛感情のない私は、律と結婚することもない。それは、律が私に対しても恋愛感情がないから。  もしも先に律だけが他の人を好きになって、この都合のいい関係が終わったらやっぱり私はまた1人。  相手だけが私のことを好きでいてくれても、私が好きになれない限り私は一生1人ぼっちだ。  千愛希は酒が回って思考が正常に働かなくなると、そんなことばかりが脳裏に巡っていた。律といる時間はとてつもなく楽しい。楽しくて、ずっと律に側にいてほしいと思った。  けれど、律もいつか離れていく。律にもちゃんと恋愛感情がやってきて、自分ばかり欠落した感情に支配されて生きていく。こんなことなら、あの時睦月と結婚しておけばよかった。  そう思い始めたら、とてつもなく悲しくて、寂しくて、急に涙が溢れた。 「寂しいって顔してる……」  律はそんな千愛希にそう言った。千愛希の心は激しく揺れ動いた。  やっぱり律には、何も言わなくてもわかっちゃうんだ……。  1人は、寂しいよ……。たまには誰かにずっと側にいてほしくて……。  そう思っていたところに突然降ってきたキス。湿った感触と律の匂い。睦月が千愛希にしたような、雄の行動。
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