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律にとって千愛希は自分と似ている存在。きっと千愛希にとっても自分はそんな存在なんだろうと律は思う。
その律が先に普通を手に入れ、自分だけが逸脱していくことを恐れているのだと律は気付いた。
「どうだろうね……先にそこから抜け出すのは千愛希の方かもしれないよ」
律は「そんなことない」とは言えなかった。既に一度まどかに恋愛感情を抱いている以上、『抜け出した』事実があるのだ。今後、まどか以外の誰かを好きになる可能性は十分にあった。
ただ、自分にはないと思っていた恋愛感情に急に目覚めた律には、千愛希にも突然そんな日がやってくる気がしていた。
それが自分でないことにもじんわり気付く。そう思ったら、確かにひどく悲しくて、寂しく思えた。
お互いに恋愛感情がないことが自由で楽で、特別だった。それがどちらか片方に恋愛感情が芽生えれば、その関係は崩壊する。その対象が全く関係ない他人であってもだ。
別れて他の人と付き合い、結婚をすればもう二度と今の関係には戻れない。
誰かのものにならないために、友情でありながら付き合うことを選択したというのに、反対にそれが自分達の首を絞めることに繋がりかねない。
「私は……ないよ。彼のことも好きになれなかった……あんなに好きだって言ってくれたのに……好きになれなかった」
またほろっと千愛希の頬に涙が伝った。律は指先でその涙をすくう。それからもう一度、千愛希の唇に触れるだけのキスをした。
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