視線の先

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「前はよく実家に来る日が被ってたもんね」  千愛希も周に会えて嬉しそうに笑った。  周も律と同じ高校を卒業しており、2学年年下の周の姿を、校内で見かけることがあった。これだけの美形が兄弟で在学していれば、有名にならないはずがなかった。  千愛希も守屋律の弟がいると騒がれていた周をこっそり覗き見たものだ。千愛希の場合、黄色い声を上げる女子生徒達とは違い、因縁の相手の弟を一目見てやろうと思っただけだったが、その満面の笑みを見せられた時、本当に血が繋がっているのかと疑ったのは言うまでもない。   向こう側からとことこやって来て、ぴったりまどかにくっついた周は、「ねぇ、支度できた? 俺も手伝うよ」と甘い声色で言った。 「いい、いい。あまねくんは向こうで座ってて」 「えー、なんでぇ? 俺もまどかさんのお手伝いしたいのに」  そう言って、まどかの後ろからぎゅっと抱き締める周。鼻先を頭頂部につけて、そっと目を閉じた。  律と千愛希がいようとも、おかまいなしである。 「もう、そうやってあまねくんが邪魔するからでしょ。支度が進まないからあっちで待ってて」 「そ、そんなぁ……」  口を尖らせたまどかに言われ、しゅんと肩を落とす周。すっかりしょぼくれた姿に、相変わらずだ、と千愛希は肩を揺らして笑った。  ちらりと隣を見上げれば、優しい目をして2人を眺める律の姿。千愛希はふっと視線を逸らして、再び周に目を向けた。
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