見据える未来、払拭できない過去

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 まるで初めてまどかと出会った時のような感覚だった。彼女は周の奥さん、ただそれだけ。恋愛感情を知らない、昔の自分に戻ってしまったかのようだった。  ……うそだろ。こんなことってあるの? 感情が突然なくなるなんて、そんなこと……。人を好きじゃなくなるのもこんなに突然やってくるもんなのか?  律には初めての体験で、混乱せざるを得なかった。まるで、千愛希の恋愛感情がわからないという体質が伝染してしまったかのようにも思えた。  それからふと思い出す。昨日、千愛希を抱いた時、いや千愛希を送っている時から全くまどかの顔など浮かんでこなかったことを。あれほど髪型も化粧もまどかに似せていると思ってた千愛希の姿。  千愛希を見ればまどかを思い出したのに、昨日は全く思い出さなかった。それどころか、千愛希は全然違う女性のように見えた。まどかとはまるで似ていない。  儚いほどに細すぎる体も、律を呼ぶ甘い声も、律の下で反応し、気持ち良さそうにとろけた表情も……まどかとは比べようもなかった。  律は更に困惑する。  俺……どうやってこの人のこと好きになったんだっけ?   あの時の焦がれるような恋愛感情を思い出そうとしてもできなかった。ようやく抜け出せた普通への道が一気に閉ざされ、振り出しに戻ったような気分になった。  さあっと血の気が引いた。千愛希の言葉が脳裏に響いたのだ。 『私ばっかり恋愛感情を知らないままずっと取り残されてくんだ……』  千愛希の恐怖にも似た寂しさが胸に突き刺さるかのように律を支配した。  このまま取り残されるのは俺の方かもしれない……千愛希が突然誰かを好きになったりしたら……。  そう考えたら、とてつもなく苦しくて、寂しくて、恐ろしかった。
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