憂い視線のその先に

様々な恋愛事情

　振り切るようにして蓮のマンションを出た律は、スマートフォンを取り出して連絡を確認した。そこに【土浦 千愛希】の名前を見つけて、少し口角が上がる。
　千愛希の名前を見て表情を崩すことを、律自身気付いてはいなかったが、すぐにメッセージを確認する自分が嫌いではなかった。

『明日、いつもの喫茶店で会える？』

『会えるよ。何時？』

『15時に。仕事、片付けてから行く』

『じゃあ、15時に』

　さっさと交わすやり取りが律にとっては心地よかった。先々週、千愛希と睦月が一緒にいるところにばったり出くわした律。仕事が山積みだと言っていた千愛希に律から連絡することはなかった。

　いつもなら1週間後くらいには連絡があるのに、こんなにも放置されたのは初めてだなと思いつつも連絡がきたことに嬉しく思う律。
　ずっと睦月とのことが引っ掛かっており、モヤモヤしていたのだ。今は仕事相手だとわかっていても、どんな仕事をしているのか、どんな会話がなされているのか気になっていた。
　だからといって仕事に対して誠実な千愛希の邪魔はできない。千愛希が仕事で忙しいと言っている以上、なにかしらあるのだと詮索したい気持ちを飲み込んだ。

　千愛希から誘ってくるくらいだから、おそらく一段落ついたのだろうと律はほっと息をついた。
　心なしか、明日千愛希に会えると思うと胸が温かくなるようだった。