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千愛希はスマートフォンをコトリと目の前の台に置いた。鏡に映った自分の顔は、まだ見慣れない。手際よくヘアアイロンをかける美容師の姿を鏡越しに確認する。
それから瞼の少し上、眉が隠れる長さで重たく真っ直ぐ横一文字に切り揃えられた前髪、長年変えなかったナチュラルブラウンを律と同じ黒に染めた。
まどかと同じ分け目も、特徴的だったカールした前髪ももうない。本当はショートヘアーにでもしてしまいたかったけれど、さすがにそこまではまどかを否定しているみたいに思えてできなかった。
千愛希は律に最後にあった日からずっと考えていた。いや、本当はそのもっと前から考えていたのだ。
律が私をまどかさんの身代わりとして見るのは、この見た目にも原因があるんじゃないか。
そんなふうに。
髪型もメイクもここ10年以上まどかの真似をしてきた。時には全く知らない他人からまどかに似ていると言われることもあった。その度にまどかに近付けたようで嬉しかった。
けれど今は違う。まどかに似ていると思われることは光栄だが、その身代わりになるのは嫌だと心が叫ぶ。
もうまどかさんの真似はやめにしよう。私らしく、そう言って突き進んできたのにここにばかり執着してきた報いが今になってくるなんてな……。千愛希はそう心の中で呟いて自分を嘲笑うかのように小さく息を漏らした。
明日は久しぶりに律に会う。律に会う前に全てを変えてしまいたかった。
律は私の変化に気付くだろうか。それとも体を重ねてもう半年経った私の変化など今更なんとも思わないかな……。
千愛希は不安を感じながらも、明日律に会えることが楽しみでもあった。このところ、色々ありすぎたから。
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