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睦月は千愛希の隣にしゃがみ込み「千愛希?」と優しく声をかけた。しかし、千愛希は寝息を立てたまま、規則正しく胸を上下させていた。
細すぎる首筋に手首、ウエストのくびれは相変わらず。千愛希を抱くと、肩や腸骨が当たって痛みも感じたがその華奢な体でさえも愛しかった。聡明で実力のある千愛希だが、その折れそうなほどに細い体を見る度、守ってあげたくなったのだ。
睦月はそっと手を伸ばし、その頬に触れた。懐かしい感触と共に、街中で出会った律の顔が浮かんだ。付き合っていると言うわりに、幸せそうではない千愛希。
愛しそうに律を見つめる視線から、千愛希の気持ちは睦月から律に移ったのだろうとは思った。けれど、あの切ない表情を見る限り、愛されているようには思えなかった。
もしかして……あの男に遊ばれてんのか? あれだけ整った容姿の男だからさぞモテるんだろうな。いかにも仕事できますって風貌がいけすかないが、仕事のできない男に惹かれるほどバカな千愛希じゃない。
だからってあんな男を選ばなくても……他にも何人も彼女がいるのかもしれない。俺が別れるなんて言わなきゃ今頃結婚して、あんな男に出会うこともなかったかもしれないよな……。
千愛希から感じる雰囲気は、まるで千愛希を追いかけている頃の昔の自分のようだと睦月は思った。もしも付き合っていながら千愛希の片想いだとしたら……もしも千愛希が遊ばれて捨てられたりしたら……。そう考え始めたら、千愛希と別れたことに後悔しかなかった。
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